大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)2558号 判決

被告人 工藤カツ

〔抄 録〕

一、論旨第一について。

有罪判決には、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならないことは、刑事訴訟法第三百三十五条第一項に規定するところであるが、これは旧刑事訴訟法第三百六十条第一項に、有罪の言渡をなすには、罪となるべき事実及び証拠によりこれを認めた理由を説明し、法令の適用を示すべしとあつたのを、証拠説明の部分を簡略化したもので、証拠はただその標目を掲げれば足りることとしたのである。故に事件の争点と証拠との関連を一々説明する必要はない。そしてこのことは事件の内容が複雑であると否とを問わず、また事実について争があると否とに関らないのである。尤も証拠の標目を掲げただけでは事実を認定するに当つて論理の法則乃至経験則に従つたかどうかということを判決文だけで判断することはできないが、判決が事実認定の証拠として挙示した証拠の内容を、記録に基いて検討すれば自ら判明するのであつて、かかることは有罪判決の記載要件ではないから、原判決が証拠の標目を羅列したことを以て刑事訴訟法第三百三十五条第一項の解釈を誤つた違法があるとの論旨は理由がない。

二、論旨第三について。

論旨は要するに、検察官は論告に当り被告人は警察官の取り調べに対しては一旦自白していると主張し、弁護人は被告人の警察官に対する供述は単に想像又は推測を述べたもので自白ではないと反駁したのに拘らず、原判決は何等の判断をも示さないで被告人の司法警察員に対する供述調書を事実認定の証拠として採用している。しかし右供述調書における被告人の供述を自白と見るかどうかは判決に影響を及ぼすことの明らかな事実であるから、これに対し何等の判断をも示さない原判決は、刑事訴訟法第一条にいう事案の真相を明らかにしない違法な判決であるというにある。

しかし所論被告人の司法警察員に対する供述調書における供述が、いわゆる自白に該るかどうかということは、判決でその判断を示すべき事項ではなく、また被告人の自白だからといつて特別な証拠価値がある訳ではなく、その証明力は他の証拠と同様裁判官の自由な判断に委ねられているのであるから、被告人のある供述が自白であるか否かについて裁判所が何等の判断を示さなかつたとしても、これを以て事案の真相を明らかにしない違法があるということはできない。論旨は理由がない。

(大塚 渡辺辰 江碕)

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